大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)668号 判決
原告 加藤俊二
同 加藤登志雄
右両名訴訟代理人弁護士 佐々木敬勝
同 西村元昭
同 玉城辰夫
被告 大道建設株式会社
右代表者代表取締役 辻本進
右訴訟代理人弁護士 小原久幸
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告は、原告らに対し、金三四二八万三三〇円およびこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言。
二 被告
主文同旨の判決。
第二請求原因
一 被告は、分譲住宅の建築、販売等を業とする株式会社である。
二 原告らは、昭和五八年四月二一日、被告との間で、次のとおりの約定の売買契約(以下、本件売買契約という。)を締結した。
1 原告らが被告からその所有する別紙物件目録記載の土地建物(以下、本件土地建物という。)を代金三三八〇万円で買受ける。
2 手付金二〇〇万円を契約締結日に支払う。
3 手付金を売買代金に充当した残代金三一八〇万円のうち二〇〇〇万円については、被告が原告俊二所有の建物を同額で買受けて決済し、残金一一八〇万円を昭和五八年五月六日までに支払う。
4 本件土地建物の引渡および所有権移転登記は昭和五八年五月六日までに行う。
三 原告らは、被告に対し、昭和五八年四月二一日に二〇〇万円、同年五月二日に最終残代金一一八〇万円と登記関係費用四八万三三〇円を支払い、被告から本件土地建物の引渡を受けた。
四 原告登志雄は、昭和五八年五月五日、妻および子供三人とともに本件建物に入居したが、本件土地建物の西隣りにある植村製菓の建物から日曜日を除き連日、午前八時ころから午後五時ころまで八〇ホンを超える激しい騒音や振動が発生し続けており、本件建物は居住できる環境下にはなく、住居としては全く不適な瑕疵のあるものであることが判明した。
五 植村製菓は、昭和五八年一月初めころから右のような騒音を発して操業しており、その工場敷地の一部は被告が売却していたもので、被告は、本件建物が右の如き環境下にあって居住用住宅としての用をなさないことを承知しながらこれを秘し、原告らに対し、本件建物が住宅として非常に環境にめぐまれていると説明していたものである。
六 そこで、原告らは、被告に対し、昭和五八年九月二二日到達の内容証明郵便で、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
七 よって、原告らは、売買契約解除による原状回復請求権および瑕疵担保責任による損害賠償請求権にもとづき売買代金三三八〇万円と登記関係費用金四八万三三〇円の合計金三四二八万三三〇円およびこれに対する昭和五八年九月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の認否および主張
一 請求原因一、二の事実は認める。同三の事実中被告が原告らから代金全額の支払を受けて本件土地建物を引渡したことは認める。同四の事実中原告登志雄夫婦らが昭和五八年五月五日本件建物に入居したことは認めるが、その余の事実は否認する。同五の事実中被告が植村製菓に土地の一部を売却したことは認めるが、その余の事実は否認する。同六の事実は認める。
二 原告らは、本件土地建物の付近に、特に原告登志雄はわずか二〇〇メートル位しか離れていない場所に居住していたもので、被告以上に現場付近の状況にくわしいものである。植村製菓からは、日曜日を除く隔日の朝二時間ないし三時間餅をつく音がする程度であり、被告は、本件土地周辺で四軒の分譲をしたが、原告ら以外の三軒からは苦情はなく、本件建物は居住に支障のあるものではない。
第四証拠《省略》
理由
一 被告は、分譲住宅の建築販売等を業とする株式会社であること、原告らは、昭和五八年四月二一日、被告との間で、本件売買契約を締結し、被告に対し、同日、二〇〇万円、同年五月二日に最終残代金一一八〇万円を支払い、被告から本件土地建物の引渡を受けたこと、原告らは、被告に対し、同年九月二二日到達の内容証明郵便で本件土地建物の売買契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
二 原告は、本件土地建物にはかくれた瑕疵がある旨を主張するので、この点につき判断する。
《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。
1 被告は、昭和五七年七月ころ、本件土地とその周辺の土地を購入し、昭和五八年四月中旬ころまでにその地上に本件建物を含めて四戸の建物を建築し、その分譲をした。
2 原告らは、従前本件土地から徒歩一〇分位のところに居住していたが、原告登志雄は、昭和五八年三月末ころ、新聞の折込広告により被告の土地建物分譲を知り、同年四月初めの日曜日に妻子とともに現地に赴いて、被告の担当者泉の案内で本件建物に入って検分し、その後、次の日曜日に父の原告俊二とともに現地を再び見て本件土地建物を購入する決意をした。その際、泉は、原告らに対し、本件土地の東側と北側の現況について説明し、本件土地建物は校区、環境が申し分ない旨述べたが、本件土地の西側の状況については説明をしなかった。原告登志雄は、その後も売買契約締結までに二回位現地に赴いたが、本件土地の西隣にはスレート葺の倉庫のような建物が存するという程度の意識しかなかった。
3 原告登志雄は、本件売買契約締結後の昭和五八年五月二日、被告から本件建物の鍵の引渡を受けて本件建物に赴いたところ、西側に隣接する植村製菓の工場から騒音が出ているのに初めて気づき、被告の担当者泉にその旨電話で連絡した。
4 原告登志雄は、昭和五八年五月五日、家族とともに本件建物に入居したが、本件土地の西隣の工場からの騒音、振動が本件建物内でも感じられる状況であった。植村製菓は、当時、本件土地の西隣に存する工場でおかきを製造しており、日曜日以外は毎日午前七時四五分ころから正午ころまでと午後一時ころから午後四時ないし午後五時ころまで操業し、操業中は乾燥機の音や餅つき機の音、振動が外部に排出されていた。
5 原告登志雄の苦情申入により、大阪市東住吉保健所では、昭和五八年八月ころ、植村製菓の工場の騒音振動の測定をしたところ、騒音は大阪府公害防止条例に定める排出基準五五ホン(午前八時から午後六時まで)を超えていることが判明した。同保健所では、昭和五九年二月二日午前一〇時半から午前一一時までに、右工場東側の本件土地との境界線上において騒音、振動の測定をしたところ、騒音が右排出基準を超える六九ホンで、振動が排出基準六〇デシベル(午前六時から午後九時まで)以内の五五デシベルであった。
6 植村製菓は、昭和五七年一一月ころ、被告から本件土地の西隣の土地を買受けて、その北側にあった工場を増築し、昭和五八年一月ころから操業を始めている。本件土地周辺で被告が分譲した土地建物はすべて販売済となり、植村製菓の南側に隣接する土地建物も同年一一月ころ買主が入居したが、植村製菓に対しては原告ら以外に近隣住民から特に騒音、振動についての苦情の申入はなされていない。
以上の事実が認められ、右認定を左右できる証拠は存しない。
右事実によると、原告らの買受けた本件土地の西側に隣接する土地上の植村製菓の工場からは騒音、振動が外部に排出されていて、本件建物内での生活に影響が生じていることが認められるけれども、右振動は大阪府公害防止条例の定める排出基準内のものであり、騒音は昭和五九年二月二日の測定では右排出基準が五五ホンのところ、六九ホンで超過してはいるが、その程度はさして大きくないことや、騒音、振動排出の時間帯は平日の昼間でおそくとも午後五時ころまでであること、原告ら以外の近隣住民から植村製菓に対する苦情申入はなされていないことなどをも考慮すると、右程度の騒音、振動が隣地から排出されているからといって、本件土地建物が住宅として通常有すべき品質、性能に欠けているとまで認めることはできないし、また、本件売買契約当時、右騒音、振動は、本件土地の西隣の工場から平日の昼間は排出されつづけていたのであるから、原告らは、平日の昼間に現場に赴いて周囲の環境、本件土地建物の立地条件等を調査、見分することにより容易にこれを知りえた筈であると思われ、原告らが右騒音、振動の発生源たる工場の存在を知らなかったことについては過失があったものというべきであるから、右隣接工場から騒音、振動が排出されていることをもって、売買目的物たる本件土地建物にかくれた瑕疵があるということはできない。
三 そうすると、本件土地建物にかくれた瑕疵があることを理由とする原告らの売買契約解除の意思表示はその効力を生じないものであり、原告らの請求は原告らのその余の主張につき判断するまでもなく理由がない。
四 よって、原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本矩夫)
〈以下省略〉